お越し頂きました皆様へ
この度は、柳川瑞季の個展みたいな演奏会にお越し頂き本当にありがとうございました。
ふと思い立って計画した演奏会が、このようにたくさんの方々によって支えられ、暖かい励ましを受け、今とても幸せな気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。
これからも大好きな音楽を様々な方向から見て、感じて、ずっと携わっていきたいと思っています。
このページは当日プログラムには載せられなかった各曲のプログラムノートです。もし宜しければ少し演奏を思い出されながらご覧頂けたら嬉しいです。
またある夜に(2019)
立原道造の詩ではこれまで数曲合唱曲を書いてきた。今回とりあげる「またある夜に」、「のちのおもひに」も数年前に合唱曲として書いたのだが、まだ演奏はしておらず、今回チェロ、サクソフォーンとともに演奏する作品としてリメイクした。
「またある夜に」の中で1番思いが溢れる一節は「私らは再び会わぬであろう」だ。
ここで詩を全て取り上げはしないが、この一言できっと内容の想像がうっすらつくのではないだろうか。
演奏会の最初から少しどんよりした内容かもしれないが、その痛みが美しさと変化するよう仕上げてみた。
ソプラノとチェロとピアノ、なかなかない編成かもしれないが、チェロがソプラノの背後から大きな温もりとして覆いかぶさるような錯覚を覚えた。
のちのおもひに(2019)
「夢は そのさきには もうゆかない
なにもかも 忘れ果てようとおもひ
忘れつくしたことさへ 忘れてしまつたときには」
詩集を読んでいた時、この文章が心に刺さった。何かあるごとに、自分に言い聞かせる文章の一つとなっているほどだ。
「のちのおもひに」も言葉一つ一つが美しく、儚い。心に投げかけてくるこの詩に音を当てはめていく作業は、思いのほか時間がかかった。しかし自分の心の中に深く刻まれた一曲となった。
ソプラノとテナーサックスとピアノ。この編成では数年前にオリジナル作品を書いたが、その作品ではソプラノは全編ヴォカリーズ(歌詞はなく、母音でのみ歌われる)だった。今回は歌詞付きということで、どのような絡みが見せられるか私自身も楽しみである。
値ひがたき智恵子(2019)
智恵子は、『智恵子抄』の筆者であり、夫である高村幸太郎よりも早く亡くなった。
「値ひがたき智恵子」は亡くなったあとの詩だ。それなのになぜデュエットにしたのか。
この作品はテノールを高村幸太郎、ソプラノは智恵子を表現している。したがって、2人は存在している世界が違う。(高村幸太郎は現実、智恵子はあの世....?)
そのため、智恵子が発している歌は光太郎には聞こえていない。もちろん光太郎が発したものも智恵子には聞こえていない。
でも時に同じメロディを歌う(ハモっている箇所)のは、それだけ2人が同じ世界にいたときから繋がっていたからだ、今はたとえ違う世界にいても。
そんなことを思いながらお聞きいただけると嬉しい。
Dessin #3(2016)
「Dessin」はこれまでに同タイトルで2作品書いており、本作は3作目である。
タイトルの意味はそのまま「デッサン(下絵、図)」であり、前曲までは有名画家のデッサンを見て感じたことを音にしていたが、今作は実際に自分が作曲する際のデッサン(作曲行程)を曲にまとめてみた。
…というと、この作品に限らずどの作品もデッサンを基にまとめているのでは?となるが、今作は、頭の中を整理する場面があったり、音を1つ1つ確かめながらおいていく場面があったりと、作曲家の頭の中を覗くような、そんな作品になっている。(初演時プログラムより)
【譜面出版情報】
ASKS Winds様より出版しております。以下商品ページです。
https://askswinds.com/shop/products/detail/1730
【初演情報】
作曲の会「Shining」第8回作品展
〜管楽アンサンブルへの挑戦〜
2016.5.22@和光市民文化センター サンアゼリア小ホール
Dessin #2(2015)
Dessin #1(2014)
ふと見かけた友人のデッサン3枚。
自画像のはずなのに、目の向きや表情が違うだけで別人に見えた。
同じ骨格なのにどこか違う…どこか違うけれど骨格は同じ…
この作品は、その3枚からインスピレーションを受けた。(初演時プログラムより)
【初演情報】
New Chamber Music 2014
2014.5.27@杉並公会堂小ホール
Dessin #4(2018)
とある展覧会で見かけたフェルナン・レジェの作品は、私に「縦方向への無限な伸び」「自由な横線」「それらを楽しむ遊び心と自由さ」の3つの感想を与えてくれた。ミステリアスなのにどこか均衡が保たれていて、それでいて自由で楽しげであった。
Dessinシリーズ4作目となる本作は、そんな3つの感想を思い出しながら音をおいていった。演奏は、2度と同じものを聴くことが出来ないものになっている。(初演時プログラムより)
【初演情報】
New Chamber Music 2018
2018.2.8@杉並公会堂小ホール
Dessin #5(2018)
コレクターだった祖父の所持品の中にたくさんの美術書を見つけた。パラパラと見ていると、ほんの少しだけ載っていたEdward Burraの作品に目を奪われた。それらは独特な色使いと形状をしているものも多くあったが、その中に力強さと芯の強さを感じた。彼について調べてみると、身体が生まれつき弱かったにも関わらず、あらゆる場に出向き、たくさんの経験をしながら作品制作をしたらしい。優れたデッサン家でもあったが、バレエやオペラなどのデザインも手がけ、ジャズも好きだったようだ。
NCMにて作品を出品させて頂くようになってから、Dessinシリーズももう5作目となる、Edward Burraの人物像や作品を心に留め、演奏して頂く2人の姿を思い浮かべて作曲した。今夜の演奏はもう2度と聴くことが出来ない仕組みとなっている。(初演時プログラムより)
【初演情報】
New Chamber Music 2018
2018.12.18@すみだトリフォニーホール小ホール
Dessin #6(2019)
個展を企画した時点でDessin #6を作曲しようと考えていた。しかし、ただただ思いだけが膨らみ、なかなか音を置くことが出来なかった。
そんなときに美術館のミュージアムショップにて購入した美術書に載っていた、アンリ・ルソーの「フットボールをする人々」に心奪われた。描かれた人々は、明るくて、陽気で、それでいて穏やかで、暖かく感じた。これは、私がこの先音楽に求めるものと一致する部分であった。
この企画のために、11人もの演奏者が集結してくれた。様々な分野で大活躍されているスーパー演奏家集団である。
個展の最後は、全員でフットボールを表現しながら、この先も暖かい世界だといいなという希望を音として並べた。
大好きな演奏者全員と同じ舞台で演奏できることが本当に幸せだ。